2021年7月11日に起きたキューバの反政府デモについての内容となりますが、キューバを離れているので自分が実際に体験している内容でもないですし、専門的なことを説明できるような知識量も乏しいので、安易にこういった内容を述べるのはどうなんだろうと迷いました。
ですが、一般的に報道されていることだけが全てであるかのようになってしまうのも違うなと思います。
この記事は、アメリカ及びキューバに住む親族の情報などをもとにして書いています。
現地では私が書く内容以上にもっと多くのことが起きているに違いないのですが、ここでは自分なりに把握した情報を並べているだけで、ほんの一側面であることをご理解ください。
インターネットの規制
今回デモがキューバ全土で一斉に起きたというのは、約10年前に発生した「アラブの春」のようにインターネット・SNSの普及が大いに関係していますが、キューバではインターネットや通信はETECSA(エテクサ)という国営の通信会社がすべてを担っています。
このETECSAが通信の規制をかけることにより、デモが発生した直後の数日間はキューバでインターネットが利用できない状態となりました。
一般の電話回線は通じていたので、夫は一般の国際電話を直接かけて、現地の家族の安否を確認していました。
また、VPNを使うことでどうにかインターネットに接続できるようです。
数日間インターネットが停止された後、ETECSAによるキューバ国内のインターネットは規制解除になったものの、再び規制がかけられたり解除されたりとコントロールされている為、利用できる時間が限られている状況が今も続いているようです。
地域によって異なるデモの激しさ
7月11日にキューバ全土で一斉に起きたデモで、各地の様子など動画や画像なども拡散されていましたが、ニュースで報道されたり拡散される情報というのは、やや極端な場面が多いこともあるのが事実です。
地域によって、または町の中でも場所によって、激しさは温度差があったようです。
幸いにも私たちの家族が住む場所ではあまり大きな混乱にはならなかったと聞きました。
また、全体的にデモの状況は日に日に落ち着いてきている部分が多いのですが、本日7月26日はキューバの祝日である革命記念日の為、再び人々は大勢で外に出て抗議活動をしています。
家に押し掛ける警察
世界中のメディアでも報道がありましたが、警察が突然家に押し掛けてきて連行されるといった事案も多発しています。
今回の大規模な反政府デモが始まるより前からずっと、このような暴動がいつ起きてもおかしくない程に国民の政府に対する不満は高まっていました。
ですが、反政府的な運動や言動をすることで拘束されたり目を付けられることを恐れ、これまで人々は政府に対しての反発に強く踏み込めずにいました。
そこで今回のように、キューバ全体で団結して一斉に動き出すことが、非常に大きな一歩となったのです。
しかしそれでもなお、活動家やジャーナリストなど ”政府にとって都合の悪い” 人々は次々と拘束され、政府の独裁的なやり方によって自由を奪われ続けています。
共産主義に関する分断
政府の体制に反発するデモというところに注目されてはいますが、実際には現在このデモをきっかけに反共産主義の人々と、共産主義を支持する人々との対立がより一層強くなり、以前のキューバでは無かったような明らかな分断が進んできた という一面もあります。
共産主義を支持する人の中には、物心ついたころから閉鎖された国の中で国の方針による教育を受け、国が運営するメディアからの情報以外は遮断され、キューバという国の中で正しいとされてきたものすべてが正しい というような、まるで洗脳のような年月を過ごしてきたために、絶対的に支持している人が多く存在します。
2020年のアメリカ大統領選でも、フロリダでキューバ系の移民にトランプ支持者が多いと話題になりましたが、この頃からもキューバ人同士での政治的意見の対立が目立つようになりました。
インターネット上での口論が繰り広げられているのはもちろん、実際に夫もSNSでキューバの政治に関する投稿をシェアしたところ、一部のキューバ人の知り合いからは怒っている内容のコメントや、お前は敵だ ブロックする! といった感情的な返信が来たそうです。
国民の分断の急激な加速、まるで2016年の大統領選以降のアメリカの状況を彷彿とさせられました。分断によって何かが狂い始めてしまうような感じがします。
報道されていない?隠された犠牲者
13日ごろにキューバ国営メディアが、デモによる初の死者を発表したというニュースが出ていました。
しかし、そのニュースの前から死者や犠牲者が出ているという話は多数噂になっていました。
私自身はそのソースをや証拠を確認できたわけではないので、断定するようなことは言えません。ただ、実際に報道されていること以外に、非常に多くの事がスルーされているということは言えます。
またデモによる直接的な犠牲者以外にも、多くの方が亡くなっています。次の項目以降で述べていきます。
食料不足、医療物資不足による死者
デモ自体は徐々に落ち着きを見せても、肝心な問題はそこではなく「食べ物がない、物が買えない、医療を受けられない」といった部分です。
先日、家族の住む近所で2名の方が亡くなったそうです。
いずれも、食べるものが買えない上に、医療が受けられないといったことが原因です。
医療に関しては、医療大国のキューバなのになぜ?と思われる方もいるかもしれませんが、「食料や物資の不足」というのは薬や医療品も含まれています。医者はいても、治療する薬が無ければ何もできません。
精神的ダメージ
食べるものが十分にない、いつまで続くかわからない絶望的な日々、追い詰められた自国、こういった状況が続くと人間に起きる現象は、強い精神的ストレスです。
キューバと言えば、貧しく厳しい状況でも負けずに明るく陽気に振舞うほどのパワフルさ、我慢強さが印象的ではありました。
しかし、さすがにその明るさすらも砕かれてしまうほど、現在の状況は人々を不安にさせています。
いつも明るくポジティブに生きている人でさえも、未来に光の見えない生活というのはそう長く耐えらるものではありません。
希望を失い、自暴自棄になったり、自ら命を絶った人たちもいると聞きました。
つい先日、夫の友人のSNSの投稿に、こんなことが書かれていました。
「いつも周りは俺のことを夢や希望に満ち溢れた男だと言ってくれていたけど、みんなに言います。俺はこの国で何に夢を見て、何に希望を持ったらいいのかわからない。」
正直、他の国にいる人が「がんばれ」と励ますことは簡単でも、その痛みをすべて理解できるわけでもないのに とか、結局は他人事だからそう言えるのでは とか、偽善のような気がしてしまって何も言えないと感じます。個人的に、ただただ世界の不平等さが悔しい。
このセクションだけはうまくまとめる言葉が見つかりませんでした。
キューバ国外での抗議活動と支援
キューバ系の移民が多く住むアメリカをはじめ、世界各国でキューバに自由を求める為の抗議活動が行われました。
各地でのデモ行進、マイアミでは道路を占拠しての大規模な抗議活動だったり、先日はホワイトハウス前でも抗議活動が行われていました。
また先日、ロシアやメキシコからの飛行機が到着し、物資の支援があったそうです。
しかしあくまでも物資の支援は一時しのぎであって、現政権の体制自体が変わらない限りは救いが無い、一番肝心なのはそこである といった声もあります。
各国がどうキューバに対応していくのか、引き続き今後の動向も見守りましょう。
Patria y Vida
かつてのキューバ革命後にフィデル・カストロが放った「Patria o Muerte(祖国か 死か)」という有名な言葉があります。
今でもキューバのいたる場所でこの政府のスローガンを掲げた看板を目にするほどです。
しかし今回キューバで起きた新たな革命によって、「Patria y Vida(祖国 そして 命)」といった新たなフレーズが叫ばれています。
元々この「Patria y Vida」は、キューバ出身のアーティスト Yotuel RomeoやGente De Zonaなどによるユニットが今年2月に発表したキューバの現体制に反発したことで話題になった楽曲のタイトルです。
そして今回の大規模デモが始まった7月11日を「Día de patria y vida(”祖国と命”の日)」と呼ぼうと、楽曲製作者のYotuelが呼び掛けて広まっているそうです。
おわりに 筆者Natyより
キューバでデモが発生した日、仕事中の夫から泣きながら電話がかかってきました。
「過去70年もの間、こんな事態になったことのない自分の祖国が、まさにたった今、見たこともないような状態になってしまっている。」
今回の内容について、自分の感じたことを言葉でまとめるにはあまりにも難しい。
うわべだけのような言葉や、無責任なことは言いたくないので、ただ本当に、一人でも多くこれ以上苦しまないでいてほしい。
もし私がキューバとは無縁の人生で、遠い国で生きていたとしたら、きっとこの件について、「大変そうだな」と、完全に他人事だったのだろうと思う。
それくらい 世界中で日々様々な問題が起きていて、情報過多で、目の前の事で手いっぱいで、本来の人間としての感情が麻痺してしまっているのかもしれない。
「人間らしく生きていたい」
私はそんな気持ちで数年前、日本を離れキューバで過ごしていました。
おかげさまで、たくさん家族ができて、たくさん愛情を得て、驚くほど人間らしくなれました。
自分だけの力でどうにもならない問題があると、祈りが生む力を信じたく思ってしまいます。
キューバで生きる人たちが、また元気に笑って過ごせるような日が来るように。
最後までこの記事を読んでいただき、ありがとうございました。